前回フィリピンの経済・政治・財政つまりファンダメンタルについて分析しました。
⇒経常収支の改善でフィリピンペソは安定基調!今までの流れを踏まえて今後を見通す。
簡単におさらいすると、フィリピンは東南アジアで有数の成長率を誇っており、
人口は今後も増加し続けてることが見込まれ、まだ経済水準が低く現在の労働集約型の産業構造でも
暫くは成長が翳る心配がありません。
政治ではドゥトルテ大統領が安定政権を築いており、財政状況も成長の為のインフラ投資により、
多少の赤字とはなっているものの懸念すべきレベルではないことが分かりました。
総じてファンダメンタルは良好な国であるということが出来るでしょう。
今回は新興国への投資を行う際に重要となる、
為替つまりフィリピンペソの見通しについて考えて行きたいと思います。
フィリピンの通貨フィリピンペソと通貨制度
まずはフィリピンの通貨フィリピン・ペソとその通貨制度について確認していきましょう。
フィリピンの通貨フィリピン・ペソ
実はフィリピン・ペソの歴史は私達の通貨である日本円よりも古く、
1852年のスペインの植民地時代に誕生しました。
その後、米国⇒日本⇒米国の占領時代を通して紙幣は幾度となく変遷しましたが、
ペソは現在にいたるまで、その名前を残しております。
フィリピン・ペソの通貨制度と簡単な歴史
日本円や米ドルのように市場原理に任せてレートが決定する通貨もあります。
新興国ではある程度の変動は許容するも、ある一定の範囲で抑える管理フロート制度や、
相場を固定する固定相場制を敷いている国が存在しています。

参照:三菱UFJ
フィリピンも殆どの新興国と同様に管理フロート制度をしいており、
通常時においては市場原理に価格決定を任せる仕組みとなっていることが分かります。
フィリピン中央銀行の金融政策とインフレ率
現在世界の中央銀行が主に政策目標にしているのはインフレ率です。
日本の中央銀行である日銀や、欧州の中央銀行であるECB、米国の中央銀行であるFRBは、
インフレ率2%を金融政策の目標にしております。
先進国ではインフレ率は低く留まっていますが、新興国では旺盛な成長によって、
インフレ率が高くなる傾向にあり4%~6%程度を目標にしている国が多いです。
フィリピン中央銀行もインフレを金融政策の目標にしており、目標とするインフレ率を
2%~4%に設定しています。
1月からの税制改革や資源価格の上昇を受け、
インフレ率は4%を上回ったことを受けて政策金利を引き上げました。
インフレ率が上昇している背景の一つに、フィリピンペソ自体の通貨価値の下落も影響しております。
フィリピン・ペソの下落は下の項でみる経常収支の悪化が個別要因として影響しています。
フィリピン・ペソ下落⇒輸入物価上昇⇒インフレに寄与⇒政策金利引き上げ
という流れになっているわけです。
中央銀行は声明文の中で「必要とあれば一段の措置を取る用意がある」と宣言しており、
中銀の更なる利上げを行う姿勢はフィリピンペソの下支え要因になると考えています。
国際収支からみるフィリピン・ペソ
国際収支は海外からどれほどの資金をビジネスとお投資で引っ張ってきているかという指標です。
国際収支ではビジネスによる経常収支と、海外からの投資受け入れによる金融収支に分けられます。
国際収支が為替レートの決定に重要な要因を及ぼす理由は、
海外から引っ張ってきた外貨を国内で使用する為に、
外貨をフィリピン・ペソに変換する取引が発生する為、
フィリピン・ペソの下支えになります。
その一方、
国際収支が赤字となりフィリピン国内から資金が流出すれば、
フィリピン・ペソを外貨に変換する取引が発生する為、
フィリピン・ペソの下落要因となります。
悪化するフィリピンの経常収支
先程経常収支の悪化がフィリピン・ペソレートの下押しになっていると書きました。
フィリピン・ペソレートを考える上で現在経常収支の動向が一番重要な要因になっております。
以下ご覧頂きたいのですが、経常収支は黒字で推移していましたが、
直近はほぼ均衡するレベルになっています。
15年ぶりに2016年10月~12月に赤字に転じました。
一貫してプラスの第二次所得収支は海外の出稼ぎ労働者による海外送金です。
直近2019年では経常収支は小さな赤字状態です。ただ2017年や2018年からは改善していることがJETROから報告されています。
フィリピン中央銀行(BSP)は9月13日、2019年上半期の経常収支が17億4,068万ドルの赤字となり、前年同期の37億5,614万ドルの赤字から20億1,546万ドル改善したと発表した。
BSPは経常収支の改善理由として、対外金融債権・債務から生じる利子・配当金などの収支状況である第1次所得収支が14億6,962万ドルから25億3,201万ドル、サービス収支が49億1,413万ドルから59億4,103万ドル、居住者と非居住者との間の対価を伴わない資産の提供に係る収支状況である第2次所得収支が131億9,376万ドルから133億1,364万ドルに、それぞれ増加したことを挙げた。特に第2次所得収支については、上半期の在外フィリピン人による国内への送金額が過去最高の146億3,800万ドルを記録したことが改善につながったと考えられる
参照:JETRO
出稼ぎ労働者からの送金がGDPの1割を占めるといわれているフィリピンの状況を如実に反映しています。
経常収支が赤字となったことの要因は貿易収支の悪化が主因です。
では何故貿易収支の赤字が拡大したかというと、原因は国内の需要(内需)の拡大です。
国内の需要の高まりによって、国内の生産だけでは追い付かなくなり、
輸入が拡大したことが要因です。
中央銀行総裁は経常収支の赤字は管理可能な水準であるとしていますが、
このペースで赤字が拡大するのであれば、フィリピン・ペソの継続的な下押し圧力となっていきます。
国内需要に必要な製品を自国内で賄えるようになるかが非常に重要になってきます。
フィリピンの金融収支
経常収支はビジネスでいくら稼いできたかという指標ですが、
いくら投資を受け入れたかという指標が金融収支です。
金融収支については積極的に海外からの投資が促進されたことにともなって大幅に黒字となっています。
結果として経常収支と金融収支を合わせた国際収支は黒転することが見込まれています。
一方で、経常収支の改善と海外からの証券投資純流入総額の大幅な拡大により、国際収支は2018年上半期の32億5,700万ドルの赤字から大幅に改善し、2019年上半期は47億8,830万ドルの黒字となった。BSPは2019年通年の国際収支について、2018年の23億579万ドルの赤字から一転し、37億ドルの黒字に転じると予測している。
参照:JETRO
フィリピンの為替総括
フィリピンでは内需拡大に国内の生産がおいついておらず、輸入が拡大したことにより
経常収支が赤字に転落したことを受け、他の新興国通貨に比して軟調に推移しました。
しかし、直近は国際収支はプラスに転換してきており為替レートは安定しています。
中央銀行の利上げ基調は継続しており一旦底打ちをして安定してきているとみることができるでしょう。